愛を諦めろ!全国魔法使い連盟

自分は単独者である。にもかかわらず、社会のなかで他者と生きる。

山川方夫「にせもの」より

 なぜ、おれは女を愛さなければならないのか。ーいや。このいい方はまちがっている。魚や犬や、虫だって、愛するのだ。ただ、魚や犬や虫は、詩は書かない。心中をしない。あくまでも単独な一本の線の自分だけをしか生きない。そうだ、こういうべきなのだ。なぜ、おれは魚や犬や虫のように、女を愛することができないのか?

 おれは人間だ。正常な人間だ。それはまちがいない。客観的にも五体と健康をそなえ、手取り一万三千円の月給とり、下町のある乾物屋の次男、そしてたぶん、勤め先で机を向かいあわせている阿井トヨ子の、恋人であるらしいこともまちがいない。おれは、どちらかといえばクソ真面目な、平凡な、いいたくないことだがやや感傷的な、気の弱い二八歳の独身者でもある。でも、たしかにおれは人間であり、人間の一人だからこそいうのだ。・・・ああ、あのいやらしい人間。一つの理不尽のかたまり。そのくせしゃあしゃあとした、もっともらしい、わけしり顔のバカな動物ども。そうぞうしく、うるさいだけの混沌。・・・そして、べとべとと肌にねばりついて、不定形な、不透明な、つかみどころのない曖昧な雲みたいな、つねにそんな肌をこえてくる一つの重みであるすべての人間との関係。生きているというだけの理由で、なぜ、おれはそれをしょいこみ、この侵入を負担しなければならないのか。なぜ、人間だけが、それに耐え、それをあきらめねばならないのか。