小野不由美「屍鬼」より
どうしてなのかは分からない。
彼はその丘で異端者だった。
それがいつから始まったことなのか、彼にも分からない。まるで生来、付与された性質のように、記憶にある限り最初から、彼と世界の関係は決定していた。
不幸な隣人に手を差し伸べれば、彼が手を伸べた事実が隣人を傷つけた。哀れみを抑えて叱咤すれば、不幸な隣人をさらに追い詰め、激励すれば、孤絶を感じさせた。どこかで何かを間違っているのだということは分かったが、それがどこなのか彼には分からなかった。
彼は彼なりに考え、自分と世界の間の溝を埋めようと努力したが、努力は空転するばかりで、いたずらに溝を深めた。
世界は美しく調和していた。彼はその調和に焦がれたが、いったん彼がそこに入ると、全ての調和は台無しになった。だからこそ、彼は独りであらねばならなかった。彼は緑野の片隅に孤立していた。隣人たちは孤立した彼を哀れみ、手を引いて調和の中に引き戻そうとするのだが、それに従えば結局いつも必ず隣人たちを困惑させる結果になったので、いつの間にか彼は手を引かれてもそれを拒むようになった。すると今度は救済を拒み、孤立し続ける存在がある、という事実が、隣人たちを苛むのだった。