愛を諦めろ!全国魔法使い連盟

自分は単独者である。にもかかわらず、社会のなかで他者と生きる。

大江健三郎「叫び声」より

「いま考えてみれば、虎がアフリカへ行きたいように、俺もどこかへ、ここより他の場所へ行きたかったんだなあ。それというのもおれは自分を、おかしな具合でこの世界にいる流刑された、どこかちがう世界の人間だというふうに感じることがあるんだよ。しかもそれはおそらく朝鮮へうまくたどりつけていたにしてもいやされることのなかった感覚なのさ。おれが属しているのは朝鮮というような地図の上に存在している国ではなくて、この世界でない、別の世界なんだ。いわばこの世界の反対の世界だと感じるんだよ。この世界ときたら、それは他人のもので、おれの本来住む所じゃないと感じる。現にいまだっておれは、他人の国の他人の夜更けに、他人の言葉でしゃべっている。明日の朝おれは他人の国の他人の朝を歩くだろう。そんな感じは欲求不満に過ぎないと思うこともあるんだが、とにかく実感ということをいえば、おれにはこの世界にぴったりとして生きているという実感がないんだよ。そしてそれはこの世界におれが、まちがってはいりこみ、まちがって居つづけているからだと感じるわけだ。どういう理由からにしてもともかくこの呉鷹雄、十八歳は、この世界の本当の人間でなくなってるんだというわけなのさ!わからないだろう、全然!」